溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を



 柊は思わず大きな声を叫ぶように出して、彼女に駆け寄った。買ってきたケーキをダイニングのテーブルに投げるように置いてしまう。けれど、今はそんな事など気にしていられるはずもなかった。
 彼女の体を支えて、顔を見る。すると、苦痛に耐えるように口元が歪み、顔色は真っ白だった。


 「どうしたんだ?風香ちゃん…………風香ちゃんっ」


 柊が体を優しく揺すり、彼女の頬に手を当てて名前を呼んだ。彼女の肌はとても冷えていた。


 「…………ん………柊さん………?」
 「あぁ、俺だよ………」
 「おかえりなさい。どうしたの?………そんなに焦って………」
 「君がソファで苦しそうにしてたからだよ。大丈夫?」
 「…………あれ?私、寝ちゃってたのか。ごめんね………」


 風香は力なく笑うと、柊に支えられながら立ち上がり、やっとの思いでソファに座った。寝ている時のような苦しさはない。けれど、いつもの柔らかな笑顔もなかった。


 「電気もつけないでソファに倒れてるから驚いたよ。それに、表情も苦しそうだった………」


 柊は風香の隣に座り、彼女の肩を掴んだ。
 そうしていないと、彼女が倒れてしまう。そんな気がしたのだ。
 柊が心配そうにそう言うと、また彼女は弱く微笑んだ。辛いときまで笑わなくてもいいというのに………。


 「また心配かけちゃってごめんね。また、頭が痛くなりそうな重い感じがあったから薬を飲んだの。でも、いつもより日数の感覚が狭くて。だから、薬効きすぎちゃったのかも。やっぱり飲み方は守らなきゃダメなんだね」


 風香が言うには、いつもは1週間ぐらい空いていた薬の服用が、3日ぐらいで飲んでしまったのだという。柊はそれを聞いて、ハッとしてしまった。
 彼女の頭痛が出始める間隔が短くなっている、と。



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