溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を




 「なんで、こんなものが………」


 風香は不思議に思いつつ、手に取り中身を確認した。
 すると、そこには予想もしなかった物が入っていた。


 「これは………私が書いた手紙………?」


 その缶箱には、風香が今まで手書きで書いたメッセージや手紙が入っていた。誕生日プレゼントに同封していたもの、記念日の手紙、彼の部屋で料理をし、作りおきしたもののタッパーに貼ってあったメモ書き。そんな些細なものまで残してあったのだ。

 そう。風香と同じように…………。


 「柊………こんなものまで大切にしてくれてたの………嬉しい………」


 もし風香の事を本当に忘れようとしているのなら、荷物など捨ててしまえばいい。
 手紙だって残しておく必要などないのだ。

 そう思った瞬間、風香は瞳から一筋の涙がこぼれた。
 柊の気持ちが伝わってきたのかもしれない。

 記憶を失う前の彼も、きっと自分の事を考えていてくれた。そんな風に思えた。


 それが風香にとって、微かな希望となった。
 




 
< 141 / 209 >

この作品をシェア

pagetop