溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を
28話「2人の秘密」





   28話「2人の秘密」





 「さて………これ、どうしようか………」


 思い出に浸りながら段ボールに入っていたものを眺めていたけれど、はたと気づいた事があった。

 クローゼットの奥に板を置き、隠してあった段ボール箱。それを戻しても大きな板は自分では直せないのだ。
 取り出すことを必死になっていたけれど、考えてみれば、戻す事を考えてなかったな、と風香は苦笑した。
 
 けれど、彼にこれは何かを聞いてみたいなとも思った。
 彼はその荷物に気づいているのか、気づいていたとしたら、この事は覚えているのだろうか。
 彼の反応が、そして答えが知りたいと考えたのだ。


 記憶を失っても、もう1度好きになってくれたのだ。きっと大丈夫。
 そろそろ偽り続けるのを止めなければいけない。メモリーロスを服用していた場合を考えると、風香はもう目を背ける事など出来なかった。

 風香の背中を押してくれたのは、記憶がなくなる前の柊が段ボールに入れてくれた物や手紙の存在だった。服は綺麗に畳まれ、食器などは壊れないように服の間に置かれていた。そして、手紙もとても大切にされていた。自分は柊に愛されていた。それを感じられたからだった。
 彼は私を嫌いなったわけではない。
 そう強く信じられたのだ。

 不安がないといえば嘘になるけれど、それでも、風香は柊に話をしよう。そう決めたのだ。
 もしかして、もうお別れになるかもしれない。そう考えてしまうと躊躇してしまう。
 けれど、メモリーロスで彼の体がボロボロになってしまったら………そのように考えると、嫌われるぐらい耐えられる、と思えた。


 「………少しでも今の柊に近づけるかな」


 風香は柊が残していてくれた手紙に入った箱をギュッと抱きしめた。
 
 その時だった。
 玄関の方から物音がした。
 まだ夕方になる前の時間。柊がいつも帰ってくる時間より大分早かった。


< 142 / 209 >

この作品をシェア

pagetop