溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を




 柊は風香の腕をポンッと優しく叩いた。
 すると、涙のついた頬や首筋、そして真っ赤になった瞳と鼻先のまま、風香は柊を見ていた。痛々しいほど苦しんでいる風香を見て、柊は胸が締め付けられた。
 話したのは間違えだったのだろうか。いや、何も伝えないで美鈴が逮捕されてしまっては、風香は更に悲しむだろう。


 「彼女の目的は見つからないだろうから、そうなるときっと風香を狙ってくるだろう。だから、風香はしばらくの間旅行に行くと言って離れた場所に居てくれないか?その隙にきっと自宅などに潜入するだろう」


 風香は常に自宅におり、なかなか侵入出来なかったのだろう。それに、警察官である柊が恋人となると、自分に捜査の目が向くのを恐れて美鈴は動けないようだった。だが、美鈴は早く金が欲しいようで協力者を集めていたのだ。
 一刻の猶予もない。警察はそう見ていた。


 「…………でも、美鈴が部屋に侵入するとは限らないんでしょ?人を使うって………」
 「そうかもしれない。けれど、今回は焦っているようでもあるから、出てくるかもしれないと踏んでいるんだ」


 そう説明すると、風香は少し考え込んだ後、「そう………」と言って、涙を拭きながらうつ向いた。


 ショックを隠せない彼女を抱き寄せて、柊は彼女の背中を優しく擦った。




 この時、風香がとんでもない事を考えているとは、柊は予想だにしなかった。



 
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