溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を



 風香だけではない、他の人から見ても同じ考えになるのだから、その説が濃厚なのだろう。
 柊がメモリーロスを飲んだ事が。
 まだ完全に決まったわけではないけれど、やはり他の人からそう言われてしまうと、本当にそうではないかと思ってしまい、風香は先ほどよりも大きなショックを受けてしまっていた。
 言葉も出なく、風香は和臣から視線を下にずらした。


 すると、柊は先ほどの深刻な声とは一転して、いつものからっとした元気のある口調で話し始めた。


 「柊さんの事はこちらでも全力で調べます。なので、風香さんはこれからまた柊さんと会ってみてはどうですか?」
 「え………でも………」
 「確かに柊さんに「少し前まで婚約者でした。何で忘れたの?」なんて、聞いてしまうと、柊さんに過度なプレッシャーやストレスがかかってしまうかもしれないので、止めた方がいいかもしれません。柊さんに伝えなかったのは、いい判断だったと俺は思います」


 ニッコリと笑ってそういう和臣を見て、風香は複雑な気持ちになった。彼に事実を伝えなかったのは彼を思っての行動ではなく、自分が「柊が自分の事を忘れた」という事実を受け入れたくなかったからなのだから。



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