溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を



 「それでは、昨日電話で話してくれた事を詳しく教えてくれませんか?」


 柊がいなくなった後、風香の心のケアをしてくれたり、捜査の進展具合を教えてくれていたのは和臣だった。そのため、昨日、偶然会った柊にそっくりな男性が、柊本人だと確信した後に風香はすぐに和臣に連絡するつもりだった。
 けれど、風香より和臣からの電話の方が早かったのだ。どうやら、柊から警察の方に連絡があり、その後何事もなかったかのように出勤したというのだ。

 風香はその話を聞きたい気持ちもあったが、一昨日再会したバーでの事や、昨日のレストランの事を詳しく話をした。
 話ながらでも、もしかして?と思ってしまう。あの薬のせいではないか、と。

 最後までしっかりと話しを聞いてくれた和臣は、その後少し考え込んだ。
 そして、何か迷いながらゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。


 「先輩はあまりにも普通に警察に来たので、みんな驚いたんです。けれど、何を伝えても話しが通じなくて……最後には「みんなで何をからかってるんだ?」と、少し怒ってたんです。………だから、今は様子を見ている段階です。怪我や病気をした様子もなかったです。なので、外傷により記憶を失くしたとは考えられないんです。そうなると、考えられるのは………精神的なもの。それはないと考えると………残りは薬物」
 「メモリーロス、ですね」
 「そうですね。風香さんの話を聞いてすぐに思ったのはその言葉でした。柊さんがそれを飲んだ理由はわかりませんし、そして、何故風香さんを忘れようとしたのか。それはわかりません……。とてもじゃないですが、信じられません」
 「…………」




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