溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を
11話「誕生日の期待」





   11話「誕生日の期待」




 風香を忘れているという事は、風香に周りの人々も物事も思い出も全て忘れているという事。
 それが思っていたよりも多いのだと風香は実感した。
 自分でも思った以上にショックを受けてしまい、彼の言葉に返事が出来ていなかった。
 けれど、偶然会った美鈴は、すぐに状況を理解してフォローをしてくれた。


 「柊さんの大学のサークルの飲み会にたまたま一緒に参加した事があって………卒業してからのでしたけど、その時に柊さんに会ったことがあったんです。ですが、1度だけだったので、覚えてなくて当然です。でも、柊さん、全然変わってないから気づきましたよ!それにかっこいいって人気者でしたし」
 「あぁ、そうだったんですね。忘れてしまってたみたいで、すみません」
 「風香から柊さんの話を聞いて、まさか恋人になるとは思ってなくて。今日もデートなんですね。あ、風香の誕生も近いから、お祝いですか?」


 咄嗟の気転でそんな事を話していたが、それはきっと美鈴が考えた嘘だろう。柊はその話しを疑うこともない、返事をしており風香はホッとした。
 自分は焦ってしまって彼に不審に思われてしまうところだったので、風香は美鈴に感謝をした。

 けれど、うっかりしていた事もあった。
 いろいろな事があり、自分の誕生日が近づいている事さえも忘れてしまっていたのだ。そう言えばそうだったと思いと、恋人になった柊が知らないというのもきっと驚くだろうという思いから、風香は恐る恐る隣の彼の表情を確認した。

 だが、予想に反して、彼は笑顔だった。
 それは、少し怖いと思うほどの、完璧な微笑みだ。




< 56 / 209 >

この作品をシェア

pagetop