溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を




 「あー、もうこんな時間か。俺ここのカフェによく来るから、また会えたらいいな。あ、これ俺の連絡先。登録しといて」


 そう言うと、輝は持っていたメモ帳に自分の名前と連絡先を書いて風香に渡した。そして、大きく手を振ってカフェから出ていったのだ。
 豪快で気さくで、少し軽い感じのイメージがある輝。普段ならばあまり近寄りにくいタイプの相手。
 けれど、風香は輝とまた会いたいと思ってしまったのだった。



 自分から連絡する勇気が出ないまま、数週間が過ぎた。それでも彼に会いたいと思ってしまい、時間を見つけてはカフェで仕事をしていた。
 そのうち、「何で連絡くれなかったの?」と、言いながらまた風香の隣の席にドカリと座った男が居た。もちろん、輝だ。赤茶色に染めた短い髪と黒のフレームの眼鏡。オーバーサイズのパーカーにスリムなボトムという姿で風香の事をムッとした目で見ていた。
 会えて嬉しい気持ちと、気恥ずかしい気持ちがあって、風香は思わずニヤけてしまう。
 

 「ま、会えたからいいけど。そういえば、名前なんて言うの?」
 「風香、です」
 「風香ね。あ、俺の事も輝でいいよ。ねぇ、また何か絵描いてよ。俺、おまえの絵好きだな」
 「う、うん………」


 好き、という言葉に過剰に反応してしまう。けれど、彼は自分の事が好きと言ったわけではなく、風香が書いた絵が好きだと言っていただけなのだ。それなのに、顔が赤くなってしまうのがわかる。


 「何赤くなってるの?照れてるなんて、可愛いね」
 「なっ…………!」
 「ほら、絵描いて!」


 サラリと可愛いと言ってしまう輝に驚きつつも、また真っ赤になってしまう顔を隠すために風香は顔を逸らして、スケッチブックにイラストを描き始めたのだった。




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