那須大八郎~椎葉の『鶴富姫伝説』~
梶原景時は源頼朝に報告するために北条邸にいた。赤子を由比ヶ浜に埋めたとの報告を聞いた頼朝はただ一言〈ご苦労。〉とだけ言った。景時は一段落ついたと安堵の笑みを浮かべ帰路についた。そこを運悪く北条政子に見られてしまった。
政子はこれまでに見た事のない表情をしていた。悲しみや怒りが外面なら内面からは猫が鼠をいたぶるような感じが受けとれる。
「梶原殿、あなたには物怪が憑いているのではありませんか。生まれたばかりの赤子を砂に埋めたと言うのに、どこかしら微笑ましい表情をしておられました。正々堂々の武人としての梶原殿からはとても考えられません。もしかすると既にあなたは梶原殿ではなく物怪で、赤子をぺろりと食べてしまったのでは。〈ああ、旨かった。〉そんな表情をしておられましたわ。」
飛鳶から既に赤子の無事を聞いていた政子は景時に言いたい放題である。景時は 〈しまったな。もう少し神妙な顔をしていればよかった。〉と後悔したが赤子を生かしておいたとは報告できない。政子には、
「疲れで顔の筋が引きつっていたのでしょう。笑ったように見えましたか。」
と苦しい言い逃れをして頼朝邸を去った。
帰りながら景時は政子の洞察力に恐ろしさを感じた。まるで私が何をしたか見透かしていたような言い方だった。確かに御台所が鎌倉殿の妻になられてから、東国はあれよあれよと京と肩を並べる程の強国となった。そう言えば昔の言い伝えの中に倭国を一つにまとめた女帝がいたらしい。卑弥呼という名前だった。まさか御台所の方が物怪で卑弥呼様の生まれ変わりでは。
いかんいかん、私はやはり疲れている。そう思いながらも景時はまたも一人笑ってしまった。
政子はこれまでに見た事のない表情をしていた。悲しみや怒りが外面なら内面からは猫が鼠をいたぶるような感じが受けとれる。
「梶原殿、あなたには物怪が憑いているのではありませんか。生まれたばかりの赤子を砂に埋めたと言うのに、どこかしら微笑ましい表情をしておられました。正々堂々の武人としての梶原殿からはとても考えられません。もしかすると既にあなたは梶原殿ではなく物怪で、赤子をぺろりと食べてしまったのでは。〈ああ、旨かった。〉そんな表情をしておられましたわ。」
飛鳶から既に赤子の無事を聞いていた政子は景時に言いたい放題である。景時は 〈しまったな。もう少し神妙な顔をしていればよかった。〉と後悔したが赤子を生かしておいたとは報告できない。政子には、
「疲れで顔の筋が引きつっていたのでしょう。笑ったように見えましたか。」
と苦しい言い逃れをして頼朝邸を去った。
帰りながら景時は政子の洞察力に恐ろしさを感じた。まるで私が何をしたか見透かしていたような言い方だった。確かに御台所が鎌倉殿の妻になられてから、東国はあれよあれよと京と肩を並べる程の強国となった。そう言えば昔の言い伝えの中に倭国を一つにまとめた女帝がいたらしい。卑弥呼という名前だった。まさか御台所の方が物怪で卑弥呼様の生まれ変わりでは。
いかんいかん、私はやはり疲れている。そう思いながらも景時はまたも一人笑ってしまった。