那須大八郎~椎葉の『鶴富姫伝説』~
 水流たちの一行が九州へと三度目の商いに行った時である。ほとんどの行商人は博多まで行くと引き返すのだが水流たちはさらに南へと下り五家荘まで入る。五家荘の人々は生活に非常に気を使っていた。鶏を飼わなかった。鶏を飼うと静まり返った明け方に鳴き声が響き渡る。それは人が生活しているということを知らしめることになる。 川での洗い物にも気を使った。食事の痕跡が分かってしまうようなものを流すのはもってのほかで、間違って箸でも流れてしまったら上流に村があると分かってしまう。そんな村人たちから再度旗揚げという気配は感じ取れなかった。
 九州の東側に足を運んでも反旗の噂はなかった。事実九州の東側にある平家の落人と呼ばれる集落は平家の末裔ではなく、争乱の際にたまたま平家側に加担していたに過ぎない。戦が終われば 普通の村人に戻り農耕漁労などの日常の生活へと戻るだけである。

 ところが行商人仲間から聞いた話に引っかかる箇所があった。耳川を上っていくと 椎葉という集落がありそこには美しい娘がいると言うのだ。一行はたまたま山の中で見かけた若い娘が可愛らしい服を着せられていた程度だろうと聞いていたが、その美しさたるや物怪(もののけ)の妖しさだと言う。
 物怪が相手ならば陰陽の術を使えるものが必要になる。一旦鎌倉へと戻り尼御台に報せることにした。
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