転生令嬢はまるっとすべてお見通し!~婚約破棄されたら、チートが開花したようです~
「えっ! ……あ、あれがフィデル様?」

 いけない。おもわず瞬きをしてしまった。だって、あまりにも急にイケメンが現れたものだからつい……。

 気を取り直してもう一度。次は食い入るようにフィデル様であろう人物を見つめる。どうやら執事との話は終わったようで、扉を閉めている。執事がその建物から出るところまでを見て、私はフィデル様が幽閉されている場所をはっきりと特定した。

 あの建物は、城のすぐそばにある別邸だ。間違いない。

 城で過ごしているときに、気になって何度かエリオットに別邸へ行ってみたいと言ったことがあったがやんわりと拒否されていた。まさか、あそこでフィデル様が暮らしていたなんて……。
 場所さえわかれば行動あるのみだ。私はしばらくお世話になっていた城の一室を飛び出すと、すぐに別邸へと向かった。
 のんきに城の敷地内を歩いているところをエリオットやロレッタに見つかれば、すぐに追い出されてしまう。私は周りを警戒しつつ、こっそりと別邸まで近づいた――が。

「なにこれ……」

 別邸の扉には、厳重な鍵がかけられていた。チャイムなどもなく、きっとこれは外からしか開けられない作りになっているのだろう。だったら、フィデル様から出て来てもらうことはまず不可能だ。

 どうすればいい。考えなきゃ。城から追い出されれば、フィデル様との接触は絶望的になる。
 さっき一瞬見えた緑髪の執事を能力で見れば、またここに来るタイミングを見計らって中に入るチャンスがあるかもしれない。でも、私はこれだけ城で過ごしていながらその執事を今まで見たことがなかった。
 なので名前もわからなければ、さっき見た一瞬じゃほぼ記憶にも残っていないため、今の段階で執事を見るのは難しい。

「つ、詰んだ」

 希望の光をやっと見つけたというのに。

「……とりあえず、部屋に戻って荷物まとめておこうかしら」

 立ちはだかる厳重な鍵を前に成す術はなく、肩を落としながら城に戻っていると――。

「そんなところでなにしているのよ。シエラ」

 おもわず曲がった背中を瞬時に正してしまう、威厳のある声が私の名前を呼んだ。

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