転生令嬢はまるっとすべてお見通し!~婚約破棄されたら、チートが開花したようです~
 髪の長いエリオットと違い、ストレートのミディアムヘア。前髪が長く、あまり表情が見えない。組んでいる脚は細く、座っていてもスタイルのよさがわかるほどスラッと長い。ピンと伸びた背筋が、育ちのよさを感じさせた。

 幼い頃一度見た面影は、少し残っている程度だ。こんな美青年に成長していたなんて……。
 壁から体半分だけを出して、ぼーっと見とれてしまう。すると、人の気配を感じたのか、フィデル様がこちらを見た。思わぬ気づかれ方に動揺する私と真逆に、突然壁から現れた得体のしれない人物を見ても、フィデル様は至って冷静なまま口を開く。

「……誰だ。お前」

 長い前髪の隙間から、ガラス玉のように綺麗なグレーの瞳が見えた。小さな声で発せられたその声色は、想像より低いものだった。

「えーっと、あの、そのですね」

 私はおずおずと壁から隠れていた半分を出し、フィデル様の前に姿を現す。どもる私を、フィデル様は不思議そうに見つめた。

「……俺の新しい世話係か?」
「え? いや、そういうわけでは」
「どうりで、さっきのニールの様子がいつもと違ったのか。やたら機嫌がよかったからな。めんどくさい俺の世話係から解放された喜びだったんだな」
「違います! 私の名前はシエラ・ガードナー。フィデル様のお兄様の、〝元〟婚約者ですっ!」

 勝手な憶測でひとり突っ走るフィデル様に、私は自分のことをいちばんわかりやすい言い方で告げた。

「……俺の兄の婚約者が、わざわざ俺のところにきてなにをしたいんだ?」
「聞いてました? 〝元〟って言ってるじゃないですか。今はただの……貧乏令嬢です」
「……そうか。別に、お前が何者だろうと俺には関係ないし、興味もない。それより、どうやってここまできた?」
「それは……」
「質問を少し変えよう。俺がここにいることをどうやって知った? 誰かに聞いたのか? 兄の命令で、俺に接触しにきたのか?」
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