人格矯正メロディ
田村はコトハに声をかけられ、なにか2、3言葉を交わした瞬間頬を赤らめて嬉しそうな表情になった。


そして田村はその表情のままこちらへ向かってくるのだ。


田村の巨漢が廊下を走るだけで周囲から笑いが聞こえて来る。


ちょっと、やめてよ……!!


心の中で必死にこっちにくるなと唱えてみても、田村に通じることもなくすぐにあたしの目の前に到着していた。


脂ぎった額を手の甲でぬぐい、あたしに向けて「話ってなに?」と、聞いてくる。


精いっぱいかっこつけるためか、必死で笑みを消しているのがわかった。


なにを勘違いしているのか……あたしはため息が出そうになった。


でも、ここまで来たらもう引き返せない。


あたしはスマホを操作して『人格強制メロディ』を立ちあげた。


しかし、相変わらず曲は流れないしタップする箇所も出てこない。


どうすればいいんだろう。


このままずっと田村と向かい合っていたら、それこそ変な噂が立ってしまうかもしれない。


目の前の田村は期待の眼差しをあたしへ向けて、体を右へ左へとくねらせている。


そういう無駄に気持悪い動きも嫌われる要因になっているのに、田村自身はどうして気が付かないんだろう。


そして一向に動かないアプリに観念して「ごめん、別に用事とかなくて……」と、言い掛けたときだった。


不意にスマホから音楽が流れ始めたのだ。


あたしはなにも触っていないし、画面も変化していない。
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