恋人のフリはもう嫌です

 あの『好き』は、なんだったのかな。
 聞ける雰囲気は、まるでない。

 目を覚ましてからの彼は、どこか冷たくて寂しくなる。

 そもそも、酔っ払いの寝言に深い意味を求めるだけ、無駄というものだ。

 彼の買ってきてくれたコーヒーを受け取り、無言で飲み進める。
 いつも以上にコーヒーが苦く感じて、やるせない。

「始発が動いたら送る。迷惑をかけたよね。ごめん」

 他人行儀な彼の態度に、唇は震えながら要望を伝えた。

「お詫びに、私とデートしてもらえませんか」

 明日は休日。

 泊まってくれて構わないと言った彼は、泊まってもよさそうな状況になっても、頑なに送ると言う。

 今日だって「朝帰りになっても、お父さんには黙っててあげるから」と健太郎さんにからかわれたのに。
 朝帰りには違いないけれど、これではからかわれ損だ。

 私の振り絞った勇気は、彼の一言で無残に砕け散った。

「酔っているから、ごめん」
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