恋人のフリはもう嫌です

「そう。ですか」

 心と体がバラバラになりそうで、沈んだ声が出る。

「普通に話しているように見えて、酔っていると会話を覚えていない時があって」

 そんな風に牽制されたら、あの『好き』の意味も聞けない。

「だから」

 彼は内ポケットから、ペンを取り出し私に差し出した。
 意味もわからず受け取ると、彼は私に自身の手のひらも差し出した。

「起きたらデート。俺から誘えるように、なにか書いて」

「え」

「メールは見ないかもしれない。ここなら必ず見る」

「でも、覚えていないのなら、なんの悪戯だって」

「だからわかるように書いて」

 彼の手に触れる。
 大きな手は男の人の手で。

 ドキドキと鼓動の速まりを感じながら、彼の無茶振りに応えようと、コメントを考えペンを彼の手に当てた。
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