恋人のフリはもう嫌です

「なんて書いたんですか?」

「千穂ちゃんが教えてくれないのなら、教えない」

「それは、秘密です」

 簡単に書いて、笑い飛ばすつもりだった。
 改めて聞かれては、答えづらい。

「まあ、いいよ。起きたら、きっと連絡する。昼過ぎくらいには、起きると思うから」

 送るという彼に「酔っ払いは西山さんです」と突っぱねて駅で別れた。
 酔って覚えていないのなら、書いてもらえば良かったかもしれない。

『好きな子とデート』

 思い浮かべて「ハハ」と失笑を漏らす。

 もちろん署名なんてしない。
 これで自分にお誘いが来たら、私は喜べたのかな。

 ううん。書いてもらわなくて正解だ。
『好きな子とデート』と書いてもらい、もし連絡がなかったらと、憂いながら待つのは地獄だ。
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