恋人のフリはもう嫌です

 私はわざと勿体ぶるような口調で言う。

「ものすごく長文です」

「それは拷問と同じだ。あとは署名だけ頼もうか」

 先に心が折れたのは、西山さんだった。
 私も本当はこんなやり取りは恥ずかしくて、早々に切り上げたい。

「でも、それでは、起きてからわからないのでは」

「大丈夫。自分で書く。千穂ちゃんに、なにを書こうとしていたか吐かせてね」

「意地でも言いません」

 ギュッと握り締めたペンを彼の手のひらに当てると「ん……」と、彼の悩ましい声が漏れた。

 顔が一気に熱くなり、彼を咎めようと見上げると、彼は空いている手を口元に当て、耳を赤くさせていた。

「優しくしてよ」

 恨めしげな視線を投げられ「西山さんこそ、発言に注意してください!」と、窘める。

 さきほど書いた『す』から離れたところに、『ち』と書くのが精一杯で、手を離した。

「もう無理です。あとはご自分で」

「仕方ないなあ」

 ペンを私から取り上げると、なにかをスラスラと書いてペンを内ポケットにしまった。
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