恋人のフリはもう嫌です

 洗面所を借りると、使い捨て歯ブラシや、ご丁寧に使いかけのクレンジングなどが出してあった。
 ありがたく使わせてもらうけれど、もやもやして仕方がない。

 リビングへ戻り、彼を手伝おうかと思案しながら、彼と上手く会話ができる気がしなくて、ソファに座った。
 近くにあったクッションを抱きしめる。

 落ち着けるわけもなく、彼を視界に入れたらダメだった。
 キッチンに立つ彼に抑えられなくて、口先は勝手に動く。

「歩く孕ませマシーンは、故障しているみたいですね」

 派手になにか落とした音がして「大丈夫ですか?」と、呆れた声を漏らす。

 口はいつも以上に止め方がわからなくて、喋り続ける。

「それとも、私だけに故障するんですか。私、機械と相性悪いですし」

 言えて妙だと思った。
 機械と相性が悪い私は、機械が好きな彼とも相性が悪いのだと。

「だいたい、こんな話で動揺されるなんて、西山さんって案外」

 暴走する口元を、いつの間にか歩み寄っていた彼に手で押さえられた。

「なにが言いたいの? また意気地なしっ言うのなら」

 私は口元に当てられた彼の手を剥がし、目を見据えて言った。

「意気地なし」
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