恋人のフリはもう嫌です

 眉根を寄せた彼が、私に覆い被さるように体を屈め唇を重ねた。

 ゆっくりと重ねた後、唇を僅かに離し、唇の動きが唇に伝わるほどの距離で彼は言葉を発した。

「減らず口」

 貶されて言い返したいのに、再び重ねられる唇に声を奪われる。

「次に文句が言いたくなったら、思い出して」

 なにを。

 答えを聞く前に、再び重ねられた唇は隙間から割り込まれ、深い口付けに変わる。

 背すじに甘い疼きが走り、彼にしがみつく。
 重ねるキスしか知らなかった私はなす術なく、彼に翻弄された。
 
 浅い息遣いをする私の耳元に唇を寄せ、「もうギブアップ?」と、挑戦的な質問をされ、首を微かに横に振る。

 すると再び、唇を今度は食むように弄ばれた。

「唇を動かす度に、俺とのキスを思い出して」

 悩ましい声で言われ、「思い出しません」と言えないまま、彼にキスをされ続けた。
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