恋人のフリはもう嫌です

「けれど、社員の方もいらっしゃいますから、会社を閉めるというのは」

「うちの社員もパートさんも、製品とまとめて戸田設備さんから「我が社が吸収合併しましょう」という話をもらっています」

 それは嫌だと、心のどこかが反応して警鐘が鳴った。

「私情を挟んで申し訳ないのですが、できるのなら御社から購入させていただきたい。藤井も同じ思いです」

 突然話を振られ、目を白黒させる。
 唐突に来た。
 忘れていた、崖から突き落とす精神!

 松本社長は頬を緩ませ、私に問いかけた。

「藤井さんも、この老いぼれから買い叩きたいのかね」

「え」

 小さな会社だから、強く言って不当に安く仕入れたいという狙いが我が社に?

 追い追いの部分にそこが含まれているとしたら、キタガワ、西山さん、引いては健太郎さんも軽蔑する。

 心の中で戸惑っている私に反し、西山さんは冷静に訂正した。

「買い叩こうとは、ひとことも我々はお願いしていません」

 西山さんの言葉に安堵し、私も西山さんの言葉に重ねた。
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