恋人のフリはもう嫌です

「私は新人ですので、難しい話はわかりません。ですが、私も松本社長から買わせていただきたいです」

「どうしてと、聞いてもいいかな」

 顎をさすりながら、松本社長は私の返答を興味深げに待っている。
 私は深く息を吸い込んで、ひと思いに告げた。

「松本社長のお人柄、でしょうか。同じ商品でしたら、私は松本社長から買いたいです」

 戸田設備の対応がいけ好かなかったとは、口が裂けても言えないけれど。

 この会社に入ってからの雰囲気に、対応してくれる方の人柄。
 短い間でも、感じるものがある。

 受け取るのは無機質な機械だとしても、やり取りするのは人間だ。

「戸田設備は、そんなに評判が悪いのかねえ。うちの社員も吸収合併は断固反対! と、管を巻く奴もいてねえ」

「私の口からは、なんとも言えませんが」と、西山さんは前置きをしてから、言いにくそうに告げる。

「私どもも、戸田設備との取引も検討しました。その結果の、私と藤井の意見と思っていただければ」

 それは暗に戸田設備が、イマイチだったと言っているようなものだけれど。
< 134 / 228 >

この作品をシェア

pagetop