恋人のフリはもう嫌です

 一通りの挨拶を終え、車に乗り込もうとすると、松本社長が思わぬ話を口にした。

「西山さん、ご結婚は」

 さすがの透哉さんも意表を突かれた顔をしたけれど、それも一瞬で、すぐに仕事用の穏やかな顔をした。

「まだでして」

「ご興味がおありでしたら」

 まさか、誰か紹介するつもりなのかな。
 お見合いを勧められたら、彼はどう答えるのだろう。

 ドキマギする心臓が煩くて、鞄の紐を握り直す。

「親父。失礼な話をするなよ。この二人、どう見ても恋仲だろう」

 松本さんの指摘に、泡を食ったのは私は。

 ブスッとした松本さんと、楽しげな顔をする透哉さんとを交互に見て、口をパクパクさせる。

 透哉さんは、あくまで表情を崩さず告げた。

「松本さんのご指摘通り、付き合いたての楽しい時期でして。結婚はまだ」
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