恋人のフリはもう嫌です

 車に乗り込んでからずっと無言の私に、透哉さんが言った。

「勝手に俺たちの関係を話して、悪かった」

「いえ」

 私が黙っているものだから、困惑しているみたいだと思うのに、明るく応対ができない。

 どうしてだろう。
 彼が、松本社長に話した言葉が引っかかって。

 信号で止まると、彼は言葉を重ねた。

「松本さんに、牽制しておきたかったんだ。大人げない」

 思ってもみない謝りの言葉に、私は顔を上げた。
 視線が絡み、彼が頬を緩ませる。

「やっとこっちを見てくれた。下ばかり見ていると酔うよ」

 狡いよ。
 簡単に私の気持ちを浮上させて。

 大切にされていると、思いたくなる。

「健太郎さんが、披露宴の席は透哉さんの隣がいいのか、親族席がいいのかって」

 目を丸くした彼は青に変わった信号に気づき、前を向いた。

「ごめん。突然その話は驚く。健太郎、そうか。千穂ちゃんは健太郎を好きってわけじゃ」

「まだそんなこと」

 不貞腐れた声が出て、自分の子どもみたいな感情にほとほと呆れる。
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