恋人のフリはもう嫌です

 車はコンビニの駐車場に入り、停められた。
 そして、ため息混じりの彼に抱き寄せられた。

「透哉さん。まだ、仕事中」

「うん。ごめん。少しだけ」

 珍しく余裕のなさそうな声を聞いて、私もおずおずと彼の体を腕を回す。

「私が好きな人は、透哉さん、ですよ」

 想いを口にすると、未だに胸がキューッと締め付けられる。

「うん。ありがとう。健太郎の結婚を千穂ちゃんに知られたらって、聞いた当初に焦っていたから。一瞬、肝を冷やして」

「健太郎さんの結婚は、前から知っていました。親戚ですし」

「ああ、そうか。そうだよね」

 力なく言う彼が「キス、したいな。ダメ?」と、窺うように言った。
 心臓はトクンと跳ねて、慌てて突っぱねる。

「だってまだ仕事中」

「うん。そうだね。千穂ちゃんも『透哉さん』呼びになっているけれどね」

 体を離していく彼のスーツの端を、思わずつかんだ。

「まだ、もう少しだけ」

 離れていく体が一瞬だけ私の方へ近づいて、唇が重なった。

 言葉を失って彼を見つめると、運転席に戻った彼が口元に手を当てて、バツの悪そうな顔をさせていた。

「ごめん。仕事中。千穂ちゃんといると、歯止めが効かなくなる」
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