恋人のフリはもう嫌です

 彼のマンションに着き、息をついてから私は本音をこぼした。

「透哉さんは、結婚がしたいわけでも、子どもが好きなわけでもないんですよね」

 口にするだけでつらくなり、眉根を寄せて目を伏せた。
 彼を見つめたまま、答えを聞くのが怖い。

「うん。そう言ったね」

 では、あれはなんだったの?
 父に、なにを言おうとしていたの?

 あの時、涙なんて流さずに、彼の話そうとしていた全てを聞いてしまえばよかった。

 彼は私の頬に触れ、私を抱きしめようと腕を伸ばしたのがわかった。

「誤魔化されたくありません」

 伸ばされた腕を掴み、首を振ると彼は小さく言った。

「千穂ちゃんは、俺が初心者って忘れている」

「え」

 顔を上げ、彼を見つめると彼は目を背けた。

「いや、言い訳だね。千穂ちゃんの気持ちまで慮る配慮ができなくて。自分でいっぱいいっぱいだった」

「なにに、対して」

「話したくない。というのは許されないかな。千穂ちゃんには、情けない面ばかり見せている気がするよ」
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