恋人のフリはもう嫌です
うなだれた彼は、私のイメージしている透哉さんとは違う人みたいだった。
いつも余裕があって、クールで、つかみどころがないとばかり。
彼は自身の髪に手を入れ頭をかくと、思わぬ言葉をこぼした。
「松本さんに嫉妬しているよ。今も」
「え」
短い声を発しても、彼はこちらを向いてもくれない。
「だって、お断りして」
「うん。断ってくれると信じていた」
「それなら」
「俺は、結婚がしたいわけでも、子どもが好きなわけでもない」
何度聞いても胸を抉る言葉に、顔を俯かせた。
胸が痛くて、自分の服を握りしめる。
「それなのに、千穂ちゃんを離したくない」
意味が飲み込めなくて、力なく頭を振る。
「このままの関係で、ずっと一緒にいようって意味ですか?」
答えをくれない彼を見上げると、私を見つめている彼と目があった。
「結婚したいわけじゃない。千穂ちゃんと一緒にいたいだけだ」
「だから」
私が話そうとする言葉に、彼は被せるように言った。
「それが結婚になるのなら、俺は千穂ちゃんとしたい」
息を飲んで、目を見開いて彼を見つめても意味を飲み込めない。