恋人のフリはもう嫌です

「嬉しいよ。俺を知っていてくれたとは思わなかった」

 帰り道、感想を漏らすと彼女は恥ずかしそうに言った。

「一方的に憧れていただけですから」

「全然気づかなかった。ごめんね」

 正直に打ち明けると、彼女はむくれて言う。

「歩く孕ませマシーンと呼ばれている人に、頼まれたからって恋人役するほどお人好しではありませんから」

「ハハ。その呼び名はもうやめてよ」

 頭をかいて懇願するのに、彼女は許してくれない。

「どうせ透哉さんは、面白半分だったのでしょうけれど」

「始まりはまあ、確かに」

 初めから惹かれていたのだと思うのだけれど、これは言ったら嘘に聞こえるだろう。

「透哉さんは、誰だってよかったんですよね」

 彼女の投げやりな態度にムッとして、彼女の腕を掴む。

「そんなわけないでしょう」

 腕を引いても顔を背けている彼女に、俺は言葉を重ねた。

「千穂ちゃん以外、考えられないよ。そう変えたのは、千穂ちゃんだからだ」

 惹かれて、そのまま彼女の全てに溺れた。
 今はもう彼女がいない世界は考えられない。
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