恋人のフリはもう嫌です
「健太郎の思惑通りなのが、癪だけれど」
健太郎や雅子さんの手の内で踊らさせていたのか、まあ、それも一興か。
「健太郎さん?」
意味のわかっていない彼女の手を引いて、俺は楽しげに伝える。
「区役所に行く? それとも指輪を買いに行く?」
「えっ。今度は恋人役ではなく、夫婦役、とか言わないですよね?」
「どうしてそうなるの」
「だって、軽いから」
彼女の訴えに吹き出すと、咳払いをしてから真面目な声で言った。
「俺と」
ゴクリと喉が鳴った彼女を見つめ、思わず彼女の唇にキスをする。
「な」
意表を突かれた顔をする彼女に「また今度」と、言うと「キスで誤魔化されると思わないでください」と叱られた。
クククッと笑うと、彼女の視線が痛い。
「然るべき日に、然るべき場所で言うから」
自分でハードルを上げてしまったな。
少しだけ後悔に飲まれそうになっていると、彼女が照れた顔をして俺の腕に自分の腕を絡ませた。
「ずっと一緒にいてくださいね」
「もちろん」
Fin.


