恋人のフリはもう嫌です

 約束通り食事をして、彼の後に続いてお店を出る。

「いつもご馳走になってしまって」

「気にしてる?」

 首を傾げながら聞かれ、その仕草反則です。と、心の中でギブアップする。

 サラサラと流れる柔らかそうな髪。
 ん? という口の形がまた、彼の色気を増幅させている。

 彼といると事あるごとに心臓がジャンプして、体がもたない。
 不自然にならないように目を逸らし、「それは一応」とぎこちない返事をする。

「なら、次は千穂ちゃんの奢りだね」

「はい。是非そうさせてください」

 さりげなく私に気を遣わせない会話は、さすがだなあと思う。

 視界の端に彼を映し、こっそり見惚れる芸当も身につけた今日この頃。

 彼が片腕を上げ、時間を確認する仕草をいつもながらに素敵だなあと思う。
 それと同時に、そろそろ帰る時間だというポーズでもあると気が付いた。
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