恋人のフリはもう嫌です

「朝お会いするのは、初めてですね」

「そうだね。朝から千穂ちゃんに会えるとは、今日はついているよ」

 平然と言ってのける彼の言葉は、モテる男のリップサービスだ。
 空気より軽くて、心に響かない。

「おはよ。千穂ちゃん」

「あっ。おはようございます。森主任」

 健太郎さんにも声をかけられ、更にワンオクターブ声が上がる。

 会社では意識して『森主任』と呼ぶようになった。
 いとこであるけれど、上司でもあるのだから。

「お邪魔虫」

 ボソッと西山さんが発した言葉に、思わず笑う。
 こっちの西山さんの方が、私は好感が持てる。

 着飾っていない、素の彼の気がして。

 健太郎さんに憎まれ口をたたいている姿が好きだなんて、変わっているかもしれないけれど。
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