恋人のフリはもう嫌です

「そういえば、西山さんも西山主任って呼ばないと失礼ではないですか?」

 噂の西山さんが主任だったと後から知り、すっかり自分の中で西山さん呼びが定着してしまっている。

 答えをくれない西山さんの代わりに、健太郎さんが代弁してくれた。

「ジジイだって言われているみたいで、好きじゃないんだろ。役職ついた時、敢えて「今まで通りの呼び方でいい」って言ってたもんな」

 本人の希望で、誰も『西山主任』と呼ばないのか。
 謎が解けたようで、納得する。

 西山さんはどことなく居心地が悪そうな顔をして、未だ黙ったまま。

 健太郎さんは、気の置けない間柄だからこその辛辣な指摘をする。

「呼び方にこだわる時点でジジイなんだよ。年齢は変えられないんだから、ジタバタするほうがかっこ悪いだろ」

「うるさい。俺は役職に、あぐらをかきたくないだけだ」

 二人のやり取りを聞いていた私に、西山さんが質問を向けた。

「千穂ちゃん、楽しそうだね。馬鹿だなあって思っている?」

 あら、ヤダ。
 顔に出ていたみたいだ。

「いえ。仲良しだなあって」

「どこが!」

 二人の声が揃って、ますます笑う。

 笑われた二人は微妙な顔をして、顔を見合わせた。
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