恋人のフリはもう嫌です
「それに、彼はただ藤井ちゃんと一緒にいたいからって甘えた理由だけじゃないと思うんだよね〜」
「どんな理由があるっていうんですか」
つい不満げな声が出ると、吉岡さんは苦笑する。
「せっかくだから、本人に聞いてみなさいよ。愛が深まっちゃうかもよ」
そんなの、聞けるわけがない。
だって理由は、女避けのために決まっている。
西山さんは、案外腹黒いのだと思う。
私を盾にして、面倒なアプローチから逃れたいのだ。
私を窓口にすれば、自分は女性からの面倒な対応を逃れられるから。
これで公私共に、彼と行動する機会が増え、彼の盾になり放題だ。
そのために権力まで使って。
なにやら逃げられない大きななにかに囚われていっている気がして、身震いがした。
なにが、かわいい子には旅をさせろよ。
崖から突き落として、なんなら這い上がってきても、蹴落とすくらいしそうなくせに。
絶対に潜んでいるに決まっている西山ファンの総攻撃に遭って殉職したら、怨んで出てやるんだから。