恋人のフリはもう嫌です
「そうなのよ。どうでもいい呼び出しを受けるくらいなら、彼みたいな人、ずっとパソコンと会話していたいんじゃない?」
「それ、褒めています?」
その言い方、奇人変人の扱いですよね。
「だって、あんなわけわからない0と1だけ? それとも英数字だけ? そんな中で自動で動くプログラムみたいなのを作るのよ。パソコンと会話出来るような変人じゃなきゃ無理ね」
ああ、尊敬が一周回って、違うモノになっている。
まあ、天才って紙一重って言うし、ね。
「彼のすごさと、人と関わりたくないだろうなっていうのは、状況からもなんとなくわかります。そしたら、私も同じ扱いでいいと思うんです」
「だから、そこが愛の力じゃない」
愛なんてあるわけがない。
恋人の役なだけであって、ただの女避けに駆り出された、たまたま都合が良かったその場にいた小娘。
はあ、自分で自分と彼との関係を言葉に表すと、馬鹿みたいだと思った。
よほど私が険しい顔をしていたようで、吉岡さんは慰めるように言った。
「まあ、恋人がいくらモテようと、今は藤井ちゃんひとすじなんだしさ」
見当違いの慰めの言葉は、虚しく心を通り過ぎる。