恋人のフリはもう嫌です

「まだ少し早いから、コンビニに寄ろう」

 打ち合わせの時間は14時から。
 すぐ近くまで到着していて、今が13時20分だから30分くらいは余裕がある。

「コーヒー買ってくるけれど、なにかいる?」

「いえ。私は」

 運転席から、一向に出て行こうとしない西山さんに「まだ、なにか?」と、かわいげのない声が出る。

「顔が固い。気分転換に千穂ちゃんもコンビニ、行くよ」

 渋々重い腰を上げる私の前を、軽快な足取りで彼は歩く。
 店内に入るとコーヒーと言っていたのに、アイスが陳列されているところに立ち、ケースを覗いている。

 彼がコンビニにいる風景も、アイスを物色している姿も、どことなく似つかわしくない。
< 55 / 228 >

この作品をシェア

pagetop