恋人のフリはもう嫌です
健太郎さんは、私を妹のようにかわいがってくれていて。
たまに度が過ぎる時もあるけれど、大半はありがたい。
健太郎さんと、同じかあ。
恋人というよりも、やっぱり妹なんだよね。
埋められない歳の差に、ため息が出る。
「エロい顔は俺だけに見せなさい」
唐突な要望に、思わず吹き出した。
「発言がオジサン臭いですよ」
「どうせオジサンですよ」
恋人役だから、という役割りの会話だとしても、彼の独占欲が僅かでも自分に向いているのなら嬉しい。
いや、エロい顔は見せませんけどね!
「向こうに着いたら、こっちがお客様だから。臆する必要はないよ。千穂ちゃんがわからない点は、他の総務の人もわからない。フラットな意見を出してくれて構わないから」
突然上司の顔をされ、面食らう。
「なに? 真面目な話は似合わない?」
嘲笑する彼に訂正する。
「いえ。頼もしいです」
「ハハ。褒めてもなにも出ないよ」
これ以上、惚れさせてどうするつもりだろう。
彼の美しい横顔を視界の端に収め、心の中で不満を漏らした。