恋人のフリはもう嫌です

 食事をしようと約束をした、仕事終わり。

 途中で一緒になったのか、健太郎さんと話しながら現れた西山さんは、どことなく不機嫌そうな顔をして言う。

「普通、これから恋人とのデートって察したら、遠慮するだろ」

 デートって言葉にされると恥ずかしい。

 それに私は、健太郎さんが来てくれるのは大歓迎だ。
 健太郎さんと話している西山さんを見ているのが好きだから。

「透哉は心が狭いんだよ。ね、千穂ちゃん。迷惑じゃないよね」

 健太郎さんに同意を求められ、「ええ。私は迷惑だとは」と本音をこぼす。

 健太郎さんは私と西山さんを交互に見比べてから、ため息混じりに言った。

「はあー。でも、こうしてこの後に食事に行くって聞くと、本当に付き合っているのかあって実感するわ」

「余計なお世話だ」

 西山さんは、相変わらずの冷めた対応をしている。

 いえいえ。恋人のフリなだけですよ。
 フリなだけ。
< 69 / 228 >

この作品をシェア

pagetop