恋人のフリはもう嫌です

 新人歓迎会は居酒屋で開かれた。
 参加人数は30人近くいて、店を貸し切ったようだ。

 大きめの座敷の片方が総務課、もう一方にヘルプデスクとわかれた。

「ほら、あそこに頭ひとつ分くらい背の高い人が西山さん」

 人集りの中で、確かに頭ひとつ飛び出ている男前がいる。
 遠くてもわかるくらい、キラキラまぶしいオーラのようなものを身にまとっている人。

 年齢も吉岡さんに耳にタコが出来るくらい「34歳には見えない」と聞いていたから、知っている。

 34歳かあ。見えないかも、ね。

 同じ居酒屋でも隣の座敷なのは、どことなく安堵する。

 ひと目見られて満足したし、もう十分だ。
 自己紹介をあんな有名人に聞かれるなんて、堪ったものではない。

 吉岡さんと雑談しながら歓迎会が始まるのを待ち、それから一通りの自己紹介などを終えると「うちの会社、固くないから個別のお酌回りとかしなくて大丈夫」と吉岡さんにアドバイスをいただいた。

 他の新入社員も、近くの人と和やかに話している。

 やっと肩の力が抜けた気がして、料理を味わう余裕も出て、歓迎会を楽しんだ。
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