恋人のフリはもう嫌です

 健太郎さんと別れてから、西山さんと食事をして、いつものように彼が腕時計を確認した。

 そして、彼は声を落として告げた。

「見られているから来て」

「え」

「俺たちの関係が疑われている」

 それは、重大な事件だ。
 私たちが付き合っていないとバレてしまったら、フリをしている意味がなくなってしまう。

 それはつまり、彼と今みたいな関係でいられなくなる。

 彼が自然な所作で私の手をつかんだ。
 口から心臓が出るかと思ったけれど、見られているかもしれない。

 振り払うのは不自然だ。
 寄り添うように彼に体を預ける。

 そのまま、彼はいつもと違う道を歩き、あるマンションのオートロックを解除した。
 そのままエレベーターに乗り込む。

 黙っている彼に、質問していいのかわからなくて、そのまま彼の行動に合わせた。
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