恋人のフリはもう嫌です

 開けられた玄関に入り、扉は閉められた。

「あの」

「上がって」

 その場で戸惑っている私に声をかけた彼は、廊下を奥へと行ってしまった。

 仕方なく靴を脱ぎ、上がらせてもらう。

 もしかしなくても、ここは彼の家?

 彼の行った方へ進むと、ネクタイを緩めている彼と目があって、慌てて目を逸らした。

 色気が半端なくて、半分くらい妊娠したかもしれないと、心の中で今の状況を茶化す。
 そうでもしないと、彼の色気は危険過ぎる。

「男の家に、ホイホイついていく女だったんだね」

 試すような意地悪な声を聞いて、すぐに反論した。

「それは恋人のフリだって、バレないようにって」

 顔を上げ、見上げた先の彼の視線に捕まった。

「俺だけ?」

「え」

「家について来たのは、俺だからだと思っていい?」

 真剣な表情から目が離せない。

「それは、はい」
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