恋人のフリはもう嫌です

「あの。西山さん?」

 彼女は不安げな顔をさせ、立ち尽くしたまま動かない。

「ん? こっちにおいで」

 表情を緩めた彼女が、俺の傍に歩み寄る。
 そんな彼女を愛おしく思う。

 彼女に惹かれていっている自分に嫌でも気がついて、ますます気持ちは沈む。

 彼女は控えめに、少しだけ俺から距離を取った場所に腰を下ろした。
 手を伸ばせば、届く距離にいる。

 届く距離にいるのに、彼女の心は決して掴めない。
 それなのに自分からこの関係を解消させ、彼女を解放させてあげられるほど、男気も見せられない。

 ただ、少しでも彼女の傍にいられたら。
 狡い大人の考えしか浮かばない自分に、笑いが込み上げてくる。

 この際、大人の狡い手段を目一杯使ってやろうと心に決めた。
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