恋人のフリはもう嫌です

「起きて、いたんですか?」

「耳は半分」

 変な発言していなかったかな。
 頭では高速で自分の発言を回顧して、口は西山さんの質問に答えた。

「健太郎さんは、いとこのお兄ちゃんですし」

「好きだから?」

 だから違うと言っているのに。
 何度、訂正したら信じてくれるのだろう。

 私が好きな人は西山さんですから、と言えば信じてくれるのだろうか。

 西山さんは黙っている私が不満だったようで、ぼそりとこぼした。

「公私混同は許せない。俺が社内一のモテ男なんだろう? どうして健太郎なんか」

 前後の脈絡がおかしいのは、酔っているせいだろうけれど。
 健太郎さんを慕っているのが、そんなに気に入らないんだとわかって、なんだかおかしくなる。

「あの、もしかして拗ねていますか?」

 モテ男のプライドなのかな。
 私が自分より健太郎さんを好きだという(勘違いだけれど )、そこが気に入らないみたいだ。

「拗ねてなどいない」

 顔の向きを変え、置いていた腕の中に隠してしまった彼がなんだかかわいらしい。

 はっきりとした口調ではあるものの、彼はやっぱり酔っているみたいだ。
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