恋人のフリはもう嫌です

「あの、どうして私なんですか?」

「ん?」

「西山さんの同行者」

 しばらくの無言のあと「プハッ」と吹き出した彼がクククッと喉を鳴らした。

「普通、今の状況で仕事の話する?」

 どうせ色気が足りない、つまらない真面目人間ですよ。

 心の中で悪態を吐いて、むくれる。

 だって、普段なら聞きづらい。

 聞いたところで素面の彼では、はぐらかされるか、お世辞を織り交ぜられるか。
 本音を聞ける気がしない。

 酔っている彼なら、本音を漏らすかもしれない。

「そうだなあ。千穂ちゃんがかわいいから」

「はい?」

 ああ、やっぱり酔っ払いに質問した私が浅はかだった。

 彼は意気揚々と話す。

「むっさい健太郎よりも、かわいい千穂ちゃんが隣にいてくれた方が気分良く仕事が出来るだろ」

 冗談だとしても、最低な理由。

 静かに呆れていると、彼は目をとろんとさせて続ける。
 眠気が増してきたのか、色気が増幅されている気がする。
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