転生人魚姫はごはんが食べたい!
 目当ての品を探す素振りで答えをはぐらかす。あまりに安請け合いしても信憑性が薄いだろう。

 その時、私の耳は微かな声を捉えた。

 何かしら……女の人の、声……歌?

 ……待って待って! この部屋ってまさか、ニナが話ていた怖い話の現場!? 一人じゃないことは有り難いけど……いやー!! 喧嘩に強い旦那様、どこですか!? そうでした私が置いてきたんでした! お経とか唱えたらいいの!?

 混乱して念仏を唱え始めた私だけれど、どうしたって声は聞えてしまう。けれどその歌に聞き覚えがあったことで多少の冷静さを取り戻していた。

 だってこれは、お母様が歌ってくれた子守歌で……人魚の歌よ。

 ……マリーナ姉さん?

 どうしてかは説明出来ないけれど呼ばれている気がする。姉妹の絆、仲間の奇跡、そんなことはどうだっていい。ただ私には、この屋敷にマリーナ姉さんがいることがわかる。

 マリーナ姉さんの歌、届いているわ。もしかしてニナが話していた幽霊って、マリーナ姉さんのこと? そうとわかれば怖いことなんてないわ!

「どこに……」

「エスティーナ様、いかがされましたか?」

「人魚がいるのですね」

 伯爵は人のいい笑みで答えをはぐらかそうとする。でも私は確信していた。

「どこなの? 教えて……教えなさい!」

 私の命令は絶対。そう信じて唱えることに意味がある。命令を下し、緊迫する場に不釣り合いな歌を披露する。
 人魚は歌を大切にするけれど、私にとってはそれだけじゃなかった。青い瞳のおかげなのか、詳しい原理はわからないけれど、私は人間相手になら単純な命令を下すことが出来る。これが私の切り札だ。
 歌が響く室内で、伯爵はある一点を示した。指先が示す先にあるのはコレクション部屋には似合わない本棚だ。

「ということは、この本棚をっ!」

 多少の重さはあるけれど、私の腕力でも動かせる重さだった。予想通り、本棚の後ろに隠し扉を見つける。

 隠し部屋の定番ね。もう少し捻った方がいいんじゃない?

 なんて、親切に教えてあげるつもりはないけれど。私は伯爵を置き去りに扉を潜った。早く姉の元へ、ただそれだけを考えて進む。薄暗い階段は先が見えないけれど、怖くはなかった。

 待っていて、マリーナ姉さん!
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