転生人魚姫はごはんが食べたい!
 走りにくいヒールはその場に脱ぎ捨て、ドレスの裾を持ち上げて階段を駆け下りる。

「――って、また扉!?」

 階段はそれほど長くはなかったけれど、またしても扉が待ち構えていた。しかも今度こそ鍵付きだ。

「仕方がないわね。戻ってもう一度……」

 今度は開けるように命令するか、もしくは鍵の在処を訊ねるか。手筈を整えたところで階上から声がする。

「誰かいるのか!?」

 意識を取り戻した伯爵が叫ぶ。よほどこの扉の向こうに隠したものに執着があるらしいけれど、私だって引き下がるわけにはいかない。

「一体誰が……」

 伯爵は警戒しながら単身こちらへと向かってくる。ならば私はここで彼が来るのを待っていればいい。逃げも隠れもしない。私はここで姉を取り戻すと決めたのだ。
 伯爵は闇に浮かぶ私の姿を見つけると態度を改めた。

「まさか、エスティーナ様!? そこで何をしていらっしゃるのですか!?」

 でも私は騙されない。今更取り繕っても遅いのですわ。

「この向こうにいるのね」

「はて、何がいるとおっしゃるのですかな? それよりもここは暗くて危険です。このような場所、エスティーナ様には似合いませんとも。きっとラージェス様も探しておいでです。さあ、早く上に戻りましょう」

「いいえ、私はこの向こうに用があるのです。でも、そうですわね。戻っても構いませんけれど、私は正しく夫に証言させてもらいますわ」

「何を証言されると?」

「人魚がいるのでしょう」

「何のことか、私にはさっぱり」

「ではこの扉を開けて下さいな。中を見ればわかることですわ」

 今も扉の向こうからはマリーナ姉さんの声が聞えている。伯爵はいよいよ言葉に詰まった。中を見られてしまえばさすがに言い逃れは出来ないだろう。

「エスティーナ様。貴女は、理解のある方ではなかったのですか? 宝石を、絵画を、人魚の美しさを理解して下さったのでは!?」

 いつ私が理解したと言ったの? 確かに宝石も絵画も美しいわ。でも人魚は物じゃない。
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