転生人魚姫はごはんが食べたい!
「人魚は貴方の欲を満たすためのコレクションではないのです。お願いします。どうか、彼女を自由にしていただけませんか?」

「私は、私は人魚を隠してなどおりません! どうかお戻りを……この先にある物は、私にとって大切な物なのです! どうかお引き取りを……どんな宝石でも構いません、望みの物を差し上げましょう!」

「何を言われても私の言葉は変わりませんわ。ここを開けて下さらない? お願いしているうちに聞いたほうが貴方のためでもあります」

「……いい気になるな!」

「ここを開けなさい!」

 伯爵は大股で階段を下り近付いてくる。
 私は伯爵から目を逸らさず、毅然と命令を下した。でなければ効果は薄い。伯爵が手を振り上げるのも気にせず、私は歌い続ける。
 けれど振り上げられた手は寸前の所で止まった。私が下した命令は『開けろ』という命令だったから、止まるはずはないのだけれど……
 
 疑問に思いながら伯爵を見つめていると、背後から現れたのは旦那様でした。

「――エスティ!」

「旦那様?」

 よく見れば旦那様が伯爵の腕を掴んでいる。

「たくっ、無茶すんなっての!」

 旦那様は伯爵の腕を捻り上げて壁に押さえつけた。

「ラージェス様!? 貴方様まで何を――、お放し下さい!」

「悪いがそいつは無理な相談だ。俺の妻に何するつもりだった?」

「旦那様、この奥に人魚がいるのですわ!」

 私が叫ぶと旦那様の目の色が変わる。鋭く見据えられた伯爵は問答無用で拘束され、その罪を問われることとなった。
 ただし夜会が中止されることはない。伯爵が罪を認め反省する姿勢を見せたことから旦那様は彼の願いを聞き入れ、この事件は私と旦那様、そして数人の人間だけが知るところとなった。伯爵はしばらくは旦那様の監視下に置かれ、身柄は息子さんに預けられることになるらしい。旦那様曰く、息子さんは信頼出来る人間なのだとか。
 表向きは華やかな会場の裏で、事件は人知れず収束したのである。

 伯爵から鍵を回収した私たちはもう一度秘密の部屋へと向かっていた。今度は旦那様と一緒に灯りを持って階段を下りている。

「それにしても旦那様、よくここがわかりましたね」

「お前を探してたら声が聞えてな。部屋に入ってみたら靴が落ちてたんで驚いたぜ」
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