転生人魚姫はごはんが食べたい!
 靴を見つけて後を追ってきてくれたなんてロマンチックな話だ。私がしたことといえば靴を脱ぎ捨ててドレスで走るというロマンチックからはかけ離れた行為だとしても。

「一人にして悪かったな」

「いいえ。旦那様は助けてくれましたわ。それに私は旦那様のおかげで姉を見つけることが出来たのです」

「姉?」

「奥にいるのは私の姉、マリーナなのです」

「そうか、お前の家族が……」

 そうだ、旦那様は私の家族に会いたいと望んでくれた。そしてこの先には私の姉が、血の繋がった家族がいる。たとえ海の底には行けなくても二人を引き合わせることが出来るのだと、私は甘いことを考えていた。
 旦那様が鍵を開けると私はいてもたってもいられず重い扉を自ら押し開ける。

「マリーナ姉さん!」

 私は喜びに姉の名を呼んだ。
 人魚にとっての水槽は檻だ。マリーナ姉さんは巨大な水槽に閉じ込められていたけれど、酷いことをされた形跡はない。最後に顔を合わせた日から何も変わってはいない。美しくて聡明で、優しく穏やかな姉さんのままだった。

「エスティ……?」

 私の存在に気付いたマリーナ姉さんが歌を止めたことで思い知る。私はマリーナ姉さんが喜んでくれると勝手に思い込んでいた。でも実際は、姉さんは私の姿を認めた瞬間、泣き出してしまった。

「どうして……貴女、人間になってしまったの?」

 溢れるたびに涙は水に溶け消えていく。でも私には、大好きな姉を泣かせてしまったという事実だけが残っていた。

 泣かないで、姉さん。私、助けに来たのよ?

「なんて愚かなの……」

 顔を見せれば喜んでくれると思った。もう一度会えたら笑いあえると思っていた。でもそれは私が押しつけた感情。助けが来たことに安堵するよりも先に、優しい姉さんは私が人間になってしまったことを嘆いてくれたのだ。
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