転生人魚姫はごはんが食べたい!
 光の届かない海の底、洞窟の奥に暮らし、なんでも知っているけれど怪しげな薬ばかりを作る危険な人魚。獰猛な生物を従えているため危険視され、おかしな薬の実験体にされてはたまらないと近寄る人魚はいない。

「確かに今は幸せなのかもしれない。見たことのない物に囲まれて毎日が楽しいのでしょう。でもその幸せは永遠のもの? あの王子様は老いていく貴女を変わらずに愛してくれる? 私は大切な妹が傷つくところを見たくないだけなのよ。わかってくれるでしょうエスティ。まだ間に合うのよ」

「マリーナ姉さん……」

「ええ」

 マリーナ姉さんは私が望む答えを返すと信じている。
 私はマリーナ姉さんのことが大好きだった。おとぎ話に語られている本物の人魚姫のようだと憧れていた。マリーナ姉さんも私のことを可愛い妹として愛してくれていた。でも私は可愛くなくていい。たとえ姉の期待を裏切ったとしても答えは変わらない。

「私には無理よ」

 ごめんなさい、マリーナ姉さん。

「エスティ?」

「私はマリーナ姉さんの望む妹ではいられない。私はあの人と生きたい。この先も一緒にいたいから」

「どうしたのエスティ……貴女、おかしいわ!」

 初めてマリーナ姉さんの声は震えていた。私はそれほどまでに姉を傷つけている。

「おかしくてもいい! 最初は成り行きだったけど、あの人はこんな私のことを受け入れてくれた。好きだと何度も言ってくれた。楽しいことも嬉しいこともたくさんあったのよ。私の帰りを待っていてくれる人もいる。私はもう陸の、人間だわ!」

「だから、それは今だけのことでしょう!」

「……きっとこれから先には悲しいことも辛いこともあると思う」

「なら!」

「でもそれが人間だって、私はちゃんと知っているの。知っていてこの選択をした。だから私は人間として生きて――」

 人間として死にたい。

 取り乱す姉を前に、とても最後までは言えなかった。でもマリーナ姉さんには理解していたと思う。

「どうしてなの……昔はなんでも話てくれたでしょう。強がらなくていいのよ。無理を強いられているんでしょう!? 私は貴女が可哀想で」

「マリーナ姉さん、それは違うわ。私、旦那様のことが好きよ」
< 112 / 132 >

この作品をシェア

pagetop