転生人魚姫はごはんが食べたい!
「ねえ、ジェス君! どうしちゃったの? この人、君のお嫁さんでしょ。どうして助けてあげないの!?」

 エリクだけは最後まで私のことを助けようとしてくれた。

「ねえホントにどうしちゃったの! 君のこと助けてくれた恩人なんでしょ!? ねえ、なんとか言ってよ……」

 私ではなかったんですか?
 私だと言ってくれたのは間違いだったんですか?
 好きだと言ってくれたことも、一緒に過ごした時間も……これは、旦那様のことを忘れていた私への罰ですか? 忘れられてしまうことは、こんなにも心が痛むもなのですね。

 この時になって私は初めて忘れられる痛みを知った。それを痛みと認識するほど、旦那様の存在が大きくなっていたことにも驚かされる。
 私は心配そうに見つめていたエリクに首を振った。もういい。このままだとエリクまで疑われてしまう。貴方まで捕まることはない。私は大丈夫だからと伝わるように。
 私の意図が伝わったのか、エリクは旦那様に詰め寄ることを止めてくれた。悔しそうな表情を浮かべ、私から視線を逸らす。

 それでいいわ、エリク。私のせいでエリクと旦那様が喧嘩するなんて嫌だもの。
 だから、だからね……? まずは誰か私に水を差し入れてちょうだいね! これから投獄されるかもしれないのに悠長ですって? 私の喉(こっち)だって大変なんだから!

 牢屋につれていかれると考えていた私は身ぶり手振りで必死で水を要求したけれど、連れていかれたのは自分の部屋だった。多少荒らされてはいるけれど、いつもと変わったところはない。部屋の前には見張りはいるけれど、とても王子暗殺容疑で連行された人間が押し込められる場所とは思えなかった。

 身に覚えはないけれど、罪人といえば牢屋ではないの?

 不思議がる私に兵士たちも察したようだ。なんでも旦那様からの指示で私を牢屋には入れることは出来ないらしい。彼らの話によると、旦那様が昔誰かと交わした約束なのだとか。

 どうしてですか旦那様。約束のこと、憶えているんですか? それとも私のことなんて忘れてしまいましたか? どうしてですか、旦那様! 私は、貴方と話がしたくてたまらないのです!

「あ、あ、あー!」

 ようやく私も、私の喉も落ち着いてきた。閉じ込められた後だから歌えるようになっても遅いけど!
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