転生人魚姫はごはんが食べたい!
「その、言い出した俺が言うのもなんだが、本当にいいのか?」

「もちろんですわ」

 やっと驚きから立ち直って下さったのですね。むしろ掌を返されてはたまりません! 私のごはんが逃げ――いいえ、なんでもないのよ。とにかく逃がしませんわ!

 いずれにしろ、この場で全ての決定を下せというのには無理がある。私の立場にしろラージェス様の立場にしろ、しがらみは多い。

「先ほども申し上げた通り、この件に関してもですがまずはお互いに時間が必要ですわね。私は父や仲間たちを説得しなければいけません。ラージェス様こそ王子という話が本当なのでしたら同じことですわね。加えてこの状況、まずは安全にリヴェール国までお帰りになって下さい」

 私は腕を上げ、彼らの背後を示す。

「そろそろ頃合いかしら」

 振り返った彼らの視線の先、水平線の彷徨には一隻の船が見え始めている。

「あの船は?」

「迎えの船です。実は、助けならとっくに呼んでありました」

「は?」

「私、海で困っている人を放ってはおけないんです」

「なら交渉の話は!?」

「助けが来るまでの時間を有意義に使わせてもらったのです」

 実のところ、私は彼らが港から出向する瞬間から目をつけていた。どうにか交渉できないかと機会を窺っていたのだが、まさか嵐に合うとはね……というわけである。
 たとえ断られても彼らをこの島に放っておくつもりはなかった。そう告げるとラージェス様たちの緊張が解けたようだ。

「感謝する」

「感謝よりもこれからの行動に期待しますわ。私たちは誠意を見せましたもの。危険を承知で人間に話かけたのですから、次はラージェス様たちの番ですわ。きちんと約束は守ってもらいます」

「もちろんだ。ところでいつ嫁に来る?」

「そうですね……ラージェス様も大変でしょうけれど、実は私の方もこれから説得が大変なのです。ですから三日後ということでいかがです?」

「いいぜ」

「こちらには時計なんて便利な物はないのですから、日の出の時間で我慢して下さいね。ラージェス様の国の、お城の見える砂浜を進むと洞窟があるはずです。そちらの入口に迎えを用意して下さいませ。服も用意していただけると助かりますわ」

「いいだろう。お前のために部屋と食事を用意して待とう」

 なんて嬉しい回答だろう。
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