転生人魚姫はごはんが食べたい!
お嫁に行きます!
 こうして私は人間として生きることが決まったわけだけど。

 クールに、冷静に、落ち着いて。

 喜びを叫ぶにはまだ早い。

 幾度も自分に言い聞かせたけれど、すでに心の中の私は空に向かって拳を突き上げている。口元が緩むのは、もう仕方がないことだ。

 陸! 人間の生活! 私、ついにごはんが食べられちゃうの!? 妻といっても形だけ、人質のようなものでしょうし。三食寝床付きなんて願ってもない提案よ! やったわー!!

 けど気を抜いてはいられない。
 ひとしきり喜びはしゃぎ、海の中を転げまわった私が言っても説得力がないかもしれないけど……。

 それから間もなくしてラージェス様たちは迎えの船に無事救出され、私は距離を保ちながらも彼らがリヴェール国の港に辿り着く様子を最後まで見届けた。
 港へと下り立つラージェス様は海を振り返り、遠くに姿を見せていた私に向けて大きく手を振ってくれる。きっとこの人が交わした約束を反故にすることはないと思えた。

 全てを見届けた私は急ぎ海の国へと戻る。先に戻っている仲間たちから、例の件については国中に知れ渡っているはずだ。

「まずは国王陛下に納得してもらわないとね」

 実の父親でもあるからこその最難関。説得のために提示した猶予は三日、しかもその内には別れを惜しむ時間も含まれているのだからぎりぎりだ。何故なら誰もが反対することは目に見えている。

「私、贅沢ね……」

 反対してくれるのは私が愛されて育った証。生まれ変わって違う世界で生きることにはなってしまったけど、今日まで私は幸せな日々を過ごしてきたのだ。
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